epilogue
「結構いい部屋・・・だね。」
そう言うと、大きいダブルベッドにしたんだ。と言って涼子さんは笑った。
「しゅ、就職活動頑張ります。」
駅前15分。2LDK。
家賃は幾らなのでしょうか。聞けない。とても聞けない。
プレッシャーが圧し掛かる。
匠君は就職するまで気にしなくて良い。と涼子さんは言うのだけれど。
「コーヒーを入れよう。それから荷物を片付けなくっちゃ。」
動きやすいように両手で髪の毛を上に巻き上げるようにしながら
涼子さんは真新しいキッチンに立った。
粉のコーヒーをダンボールから取り出し、ザラザラとコーヒーメーカーに入れる。
軽量カップを使わずに美味しいコーヒーを入れるのが涼子さんの特技の一つだ。
「それでそれで、片付け終わったら、近所を散歩しに行こう。」
くるりと振り向くとそう言って。
涼子さんはつついと俺に寄り添ってきた。
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「涼太はもてるようになる気がする。」
やさしいし、気が利くし。と横に寝ている涼子さんはこっちを向いて言った。
「まだ3歳なんですけど。涼子さん。」
「性教育はどうしよう。」
「早いって。」
もぞもぞと体を動かすと、そうか。と涼子さんは頷いた。
「匠君、沙希が彼氏を連れてきたらどうする?」
「まだお腹の中なんですけど。」
名前はもう付いている。
「12歳くらいになったら一緒にお風呂はいってくれないんだよ。」
お父さんあっちいってー。とか匠君は言われるんだ。と言って。
涼子さんはシーツを引っ張りあげながら笑った。
「許さない。一緒に入る。」
本気で答えた。
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スピーカーから流れる音楽に合わせてガーガーと掃除機の音が重なる。
ずべしゃ
隣の部屋から派手な音が聞こえると同時に泣き声が聞こえてきた。
「匠君、大変だ。沙希がまたベッドから落ちた。」
隣の部屋を覗くと顔から派手に地面に落ちている。
何でこいつは柵を乗り越えるのだろうか。
とても活動的な女の子になりそうな気がする。
「はなが、はなが潰れてしまう。」
鼻がつぶれたら美人さんになれなくなっちゃうもんね。とほっぺたを突付いてあやしながら涼子さんは言った。
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ぼろぼろになったCDをラジカセに入れて再生ボタンを押す。
勢い良くイントロ部分が流れてきた。
「これこれ、この曲。」
「う、うーん。ピストルズかあ・・・」
「よくきいてんじゃん。親父。」
「いや、だけど。ていうかおやじって言うなよ。子供。」
小学校3年生で。
「いーいーかーらー。放送委員会でお昼休みにお父さんお母さんの思い出の曲をかけるんだって。」
「でもほら、小学生でピストルズは。なあ。」
おむすびころりんとかかけるんじゃないの?普通。
パンを焼きながら。
涼子さんはholidays in the sunならどう?歌っている人は隠せば良いし。
なんて悪戯っぽく言って、笑った。
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ぐるぐるまわる。
そんな毎日が、ずっとずっと。
いつかそんな事考えたな。って思い出す。
そんな事あったなって思い出す。
転がってくうちに跳ねたり溝に落ちたり、角が取れて丸くなったり。
下り坂をゆっくり降りたり、坂道を駆け上がったり。
Like a Rolling Stoneって奴。
ボブディランや、ビートルズやローリングストーンズとか、エアロスミスとか
メタリカとかメガデスとか、ガンズなんかと同じ道を歩く。
好きな事を続けることに。
好きな人と一緒にいることに、きっと理由なんてないのだ。
終わり