第18話

 

鼻に抜けるような声と、シャンプーの柔らかい匂い。
「んう・・・」

恋人同士だから当たり前の行為ではある。
えーと。うん。

「ん・・。」
両手を肩に乗せてきて体を寄せられる。
目は閉じたまま。
髪の毛が二の腕に落ちてきて、頭をぐいぐいと押し込まれるようにされる。
少し汗ばんだような、甘ったるい匂い。

「うん・・・」
うの方にアクセントがついている言い方で、全身を擦りつけるようにくっ付けられた。

舌を擦り付けるようにして。
「んく。んー・・ん。」
目を開くと真っ赤に染まった首筋が見える。
見惚れていると涼子さんの目がぱっちりと開いた。。

目線が絡まると、顔を離して
「目を開けていちゃ駄目だ。」
恥ずかしいし。なんて言って左手で俺の目を隠す。

視界が闇に包まれて、一瞬後に柔らかく唇が塞がれる。
「んう。」
んの方にアクセントを置いた、涼子さんらしくない少し抗議の色を含んだ弱弱しい声。
掴んできた手の力は思ったより強いけれど
擦り付けるようにされた体は思ったよりも軽いなんて思った。

退院の日が決まったからご褒美なんて言ってきたのだけれど。

ベッドの上で、涼子さんは俺の上に覆い被さるようにしていて中々離してくれない。
体を絡みつくようにさせて、俺の体に掴まるようにして。
ラジカセからは何かDJが喋っていたけれどまったく耳に入ってこなかった。

唇が離れる。
「匠君、目、開けてない?」
「うん。」
もう一度塞がれた。

唇が離れる。
「退院だね。」
「うん。」
垂れ落ちてきた髪が頬にかかってきてくすぐる。
涼子さんの匂いがした。

涼子さんはふにゃんとしていて、嬉しそうで。
涼子さんの上半身が俺の上半身に預けられてきて、
俺はかなり不純な事に頭が支配されている。

ゆっくりと背中に回していた手を涼子さんの前に持ってくる。
ここは病院だが、勘弁してもらうとしよう。
さようなら。いつのまにか過ぎていた僕のヤラハタ。
大事に取っておいたつもりは無いのだけれど。

そろそろと手を延ばして。涼子さんはまだふにゃんとしている。
俺の胸板に柔らかく押し当てられている夢にまで見た涼子さんの胸を鷲掴みにし

いてててててててててて。

「匠君そういうイヤらしいのは良くない。」
痛いイタイイタイイタイ。肉挟んでる挟んでる。つねるって言うかそれじゃ毟り取るみたいなイタイイタイタ

「非常に良くない」
わかりましたわかりました。
そういう行為は良くないですね。確かに。わかりました。イタイイタイ。

何を考えているんだと言う感じにふう。と溜息をつかれて、手を離してもらう。

「ミニスカートが良いだとか、匠君はイヤらしい事ばっかりだ。」
これだから男の子は。
ぶつぶつと物凄く懐かしい事を言われる。

ぶつぶつとそう言いながらも俺の膝の上からどこうとしない涼子さんに手を延ばした。
喋る度にぴょこぴょこと後ろで結んだ髪の毛が揺れる。
「別にイヤだとかそう言う事じゃ無いんだから、匠君は場所とか」
「涼子さん。」
ふふ、涼子。そのうるさいお口を俺の唇で塞いでや
「・・・」
イタイイタイイタイイタイごめんなさいごめんな

思いっきり抓り上げてから俺の上を降りた涼子さんは廊下を伺ってから服装を調えた。
姿見も見て、少しほつれた髪の毛も直す。
てててとバッグの方に近づくと、リップクリームを取り出して後ろを向いて塗った。
長くなった髪の毛が揺れる。

「涼子さん、ごめんね。」
なんとなく謝ってみる。

えろくてすいません。

あと、いろいろありがとう。

後ろを向いた涼子さんの背中が少しだけ揺れて。
振り向いてゆっくりと近づいてきた涼子さんにがしっと頭を固定されて、
ゆっくりとついばむようにもう一度唇を合わせられた。

鼻先を突き合わせて、3センチの位置に目と目が会う。
その格好のまんま、

--退院の前に、ラジカセを持って病院の中庭でピクニックをしよう。
今度の祝日は晴の予報で、病院での最後の休日には丁度良いから。

匠君からハッカの匂いがする。
そんな風に続けながら涼子さんはもう一度ゆっくりと左手で目を隠してきた。