第5話

 

「む、ウィーザーか。前作はパワーポップだったのに急に変わったなこのバンド。」

「いいでしょ、このアルバム。テンション高いし。パンク的ですらあるよね。」

「見逃していたな。」

「なんかリヴァース・クオモは元々メタル好きだったらしいよ。相変わらず外見は気が弱そうだけど。」

ううむ。チェックしていなかった。これは良い。と言いながらコーヒーを啜る。
24日なのだから当然と言えば当然なのだが、カップルや家族連れで大混雑していて、
響き渡る人々の話し声と楽しそうな響きが混ざり合ったように聞こえてくる。
少し天候を心配していたのだけれど、空は少し寒々しいくらいにからりと晴れてくれた。

そんな喧騒の中で俺と涼子さんは歩き疲れたこともあって、ベンチに座り込んで2人で音楽を聞いている所だった。
イヤホンの片方は涼子さんの耳に。もう片方は俺の耳に。

 

「あれはあれで好きだったんだけどな。これも良い。ん・・・・匠君の言うとおりこのチュロスと言うのは美味しいな。」
と言って涼子さんはちょうど半分に切ったチュロスを又齧った。

「んーーー涼子さん、スプラッシュ・マウンテンでもいく?」

「プーさんは何時からと言っていた?」
口の周りに付いた砂糖を器用に舐めながら聞いてくる。

「ファストパスが・・3時半かな。あと30分くらい。」
ではここでもう少しのんびりしよう。と言って涼子さんはコーヒーを抱え込むようにしてまた啜った。

涼子さんの横顔を眺める。
珍しく唇に薄く光るピンクの紅をつけて。長めだけれど念願のチェックのスカートを穿いてきてくれた。
上着は短めのお気に入りの皮ジャン。涼子さんにしては気合を入れてくれた格好かもしれない。
そうやって隣に座っている人は間違いなく美人で、俺は幸せ者かもしれないと思ったりもする。
ぼうと眺めていると、涼子さんはこちらをちらりと見て、慌てて目線を逸らせた。

 

「た、匠君はあれか。その、こういう所に一緒にくる人はいないのか。」
すうと深呼吸のような事をしてから、涼子さんはそんな事を聞いてきた。
「?」
普段あまりこういう話はしないし。
と相変わらず目線を逸らしながらもごもごと口ごもったように聞いてくる。

「・・・?」

「クラスメイトとか。その、山口さんとか言ったか。そういう子とかと。」

「。。。。いるわけ無いでしょう。」
これだけ涼子さんと一緒にいて他に女性がいるほどの甲斐性があればこんなに苦労はしていない。

「本当か?」

「バイト以外の日は殆ど練習してるじゃないですか・・・」

「む。」

「そうか。あれだな。匠君はあまりもてないんだな。」

涼子さんはうん。うん。と頷きながら大変失礼な事を言ってくる。
相変わらずイヤホンからは景気の良いパワーロックが流れてきていた。

「余計なお世話です。涼子さんこそどうなのさ。」

「ん?私か。・・・そうだな。」
と上を見上げながら意外なことを言ってくる。

「え?涼子さん・・・いるの?」
少し焦って聞き返してしまう。

「ふふ。そうだな。ディズニーランドは初めてだ。」
それに、映画も美紀と行くくらいであまり行かないな。
と足をブラブラとさせながら悪戯っぽい顔で言いかけてきた。

「なんだ。。いないんじゃないか。」

「これから初めて行ける所がたくさんあると言うことだ。」

「なるほど・・そういう考え方もあるね。」

「そうだろう?なんだってそうだ。急いだって何にもならない。私だって行きたいところ位、たくさんあるぞ。」

「例えば?」
非常に興味のある問題なので聞いてみる。

「そうだな。テレビでよく見るからお台場など行ってみたいな。」

「ふーん。涼子さん、意外とミーハーなんだね。」

「後見たい映画も沢山あるぞ。ハウルの谷のラピュタとか。」

「ああ、なるほど。人気あるみたいだよね。」

「匠君は意外と思うかもしれないけれど、私は遊ぶのは好きだぞ。」

「それは知ってる。」
2人で笑いあう。

ま、そのうち誰かさんが連れて行ってくれるかもしれないな。と言って涼子さんは寒そうに又コーヒーを啜った。