第4話

 

「・・・・」

「いや、ほら、補講とテストが終わったら俺も帰るし・・・」

目の前には薄手の白いセーターを着て真面目な顔をして蜜柑を剥いている涼子さんがいる。
このタイプの薄手のセーターは少し胸が強調されすぎていて目のやり場に困ったりする。

「それはしょうがない・・。補講なのであれば。」

「涼子さんは20日に帰るんでしょ?俺は25の補講受ければ26日には帰れるから。」

むう、匠君と帰省しようと思ってたんだけどなと言って、涼子さんは蜜柑を持って炬燵にもぐりこんだ。
そもそも寒さに弱いらしく、最近は俺の家に来るとコーヒーを入れるとき以外は炬燵に潜りっ放しだ。

「美紀さんは?新幹線で帰るなら方向一緒じゃなかったっけ?」

「美紀は28日に帰省だそうだ。」

「ずいぶん遅いんだね。何か用事でもあるのかな。」

む、そんな事は匠君は知らなくてもいい。そう言って涼子さんは手を伸ばしてラジカセのスイッチを入れた。
FMラジオからポール・マッカートニーのWonderful Christmas Timeが流れてくる。

「年末だねー」

「た、匠君は24」

「ん?そうだ涼子さんは23日に何か用事があるんで早く帰るんだったよね」

「ん。。ん。そうだ。毎年空手道場の子供達とクリスマス会があるからな。父が必ず参加しろとうるさいんだ。」

匠君も呼ぼうと思っていたのに。とぷいと背を向ける。

「そっか、それは俺も行きたかったな。涼子さんサンタクロースの格好とかするの?」

軽い冗談で言ったつもりだったのだが涼子さんは明らかに焦った。

「そ、そんな格好するわけないじゃないか!」

あんなミニスカートなんて考えられないと顔を赤くしながら喋っている。
何かと勘違いしているようだが黙っておくことにする。

「じゃあ、匠君は26日に戻ってくるんだな。」

「そうだね。25日の夕方にはこっち出ようかと思う。」

そうか、と言いながら炬燵の中でバタバタと足を動かす。

「暇ならみんゴルでもやる?」

うーん。とごろごろしながら唸っている涼子さんはん。と気合を入れると、がばちょと起き上がってこちらに向き直ってきた。

「匠君。」

「・・・なに?」

「美紀はな。」

「ミッキー?」

「美紀だ美紀。」

「ああ、美紀さん。うん。」

「友達と遊ぶ為にこちらに残るらしい。」

「へえ。どっかいくのかな?」

「24日に泊まりで男性とディズニーランドに行くと言われたんだ。」

「へえ。」

確かに美紀さんも美人だしなあとふと考える。
まあうらやましくないと言えば嘘になる。つまり、泊まりに出かけたりするそういう関係にだ。

「匠君はどう思う?」

「どうって・・いいんじゃない?恋人と行くって事・・だよね?」

「勿論。そうでなければ許しはしない。でも私は婚約を交わす前にだな、そんな婚前旅行のようなものは良い事ではない。と注意はしたんだ。」

と蜜柑を口に放り込みながらこっちをちらりと見て、当たり前じゃないかという感じで涼子さんは言った。

「婚約って・・・まあ、涼子さんならそういうと思ったけど。」

「泊まりとはけしからんと思わないか。匠君。」
例えそういう事がないにしても泊まりで行くなどとは実に良くないと繰り返す。

「そういう事はあると思うけど・・」

「なおさら良くない。」
ぴしゃりと言われる。

しかしまあ、地理的な問題で泊まりも仕方ない場合もあるんだろうな。と言って涼子さんは頬杖をついてごろごろする。

「ん?涼子さんディズニーランド行った事無い?ここからならまあ、日帰りでいけるよ。」
少し引っかかったので聞いてみる。

「・・・匠君はあるのか?」

「うん。中学の修学旅行で。」

「私はあまり遊園地だとかそういう所には行った事がない。」

あまりそういうところに行ってわいわいとやるのは好きではないし。と涼子さんは続けた。

「匠君は行きたかったりするのか?」

「俺?・・・まあ。そうだね、意外と好きかなあ。ああいう雰囲気って嫌いじゃないな。」

「・・・・・」

涼子さんは相変わず足をパタパタとさせてじーっと黙っている。
その姿は何故だかまるで撫でてもらうのを待っている猫のようにも見えた。

「・・・・・」

「えーと、その、涼子さん、今度一緒に行きません?まあ、俺でよければ。」

気恥ずかしいけれど。
まあこれは男の役目だろう。そう言った瞬間。

「24日が良い。」

と行くとか行かないとかでなく、そう返答が来た。

「え、でも涼子さん20日に帰るんじゃ。」

「丁度その日しか開いてはいない。」
そう断言してくる。

「ええと、じゃあ、その日に。俺と遊びに行ってくれる?涼子さん。」

涼子さんはしばらく考えて。

「そうか、それでは帰省は26日に伸ばさないといけないな。匠君がそう言うのであれば。」
父は残念がるかもしれないけれど、あの子たちにはお年玉をあげることにすれば良い。
私は人ごみは苦手なのだけれど。うん。付き合っても良いな。
と呟いて涼子さんは向こうを向いたまま。

足をパタパタと揺らしながらコタツから電話へと手を伸ばした。